ダークナイト

ダークナイト 特別版 [DVD]

ダークナイト 特別版 [DVD]

去年公開されたので(私的事情により)完全スルーだったのだが、こないだT4見たのでクリスチャン・ベールが見たくなってレンタルしてしまった。しかし観た後どういうわけだか光の速さで特別版注文してました。えええ!?いやでも半額だったしさ…


※ネタバレ注意


そんなわけで感想。これは娯楽映画じゃない。見てて爽快感や痛快さがまったくない。最初から最後まで苦しい。特に後半は深く潜ったまま一度も息継ぎできずに、すごいスピードで泳ぎ続けてるみたいな感覚だった。普通は見終わった後、頭にいろいろ感想文が浮かび上がってくるものだけど、あまりに凄すぎて言葉がなかった。言葉が浮かぶまで数時間かかった。すごいぜ…
この映画のすごさはひとえに脚本だと思う。もちろん、ヒース・レジャークリスチャン・ベールゲイリー・オールドマンのすごすぎる演技や、カッコイイ映像とかシーンの繋ぎ方とか特殊効果とかCGとかそういうのもすべてすばらしいと思うけど、それらもすべて脚本・物語の力がなければ成り立たないものだと思いたい(一応素人物書きとして)。セリフも文学的でかっこよかった。

この映画は、正義の味方として生まれた夜の住人・バットマンが、いかにして高潔さを持ったまま(ダークサイドに堕ちぬまま)「ダークナイト(闇の騎士)」になっていったのかという物語なのだが、そこに至るまでに守るべき大衆の心の脆さや強さ(この辺デビルマンを思い出します)、ブルース・ウェイン個人としての幸福の行く先が、ジョーカーあるいはデントとの完全なる対比によって描かれている。ジョーカーはバットマンと同じ闇の住人だけども志が正反対(D&D的に言うとローフル⇔カオティックの関係)、デントとバットマンは高潔な人格を持っている点は同じだけども、デントは「光の騎士」であり、日陰者のバットマンとは住む世界が違う。
バットマンはデントがいれば、ブルース・ウェインに戻ることができる。個人として幸福を得ることが出来る。しかしその幸福は結局ジョーカーがいなくてもデントによって(結果的にジョーカーによって)奪われる。バットマンバットマンをやめようとそれは変わらない。しかしデントはダークサイドに堕ちる。
一方でジョーカーはバットマンがいないと「ジョーカー」として生きていくことが出来ない。ジョーカーはバットマンの影だ。背中合わせの、(バットマンにとっては)忌まわしい存在だ。ユーコンプリートミー。
バットマンが最後に「ダークナイト」になったとき、「ビギンズ」でのレイチェルのセリフ「この顔こそが仮面、あなたの本当の顔はバットマン」というセリフが痛烈に思い出された。それまでは、仮面の下には暗闇だけでなく、まだ夢と希望があった。正当な手段によってもたらされるゴッサムシティの平和と、個人としての幸福というふたつの希望。しかしそれらは取り去られ、仮面の下には沈黙と怒りをはらんだ暗闇だけが残った。すべてを失ったバットマンには犯罪の象徴・ジョーカーだけが残った。なんという業!それでもパンドラの箱のように、人々の心には少しの美しさも残っていた(はっきり言って痛快さを感じるのここだけ)。


ヒース・レジャーの演技があまりにすごすぎて、でも他の作品見たことないから気になってウィキで調べたら私より若い人でびっくりした。ゲイリー・オールドマンと同年代くらいかと思ってた…。すごすぎるぜ。
クリスチャン・ベールもとてもよかった。ジョーカーに食われてたけど。
レイチェルの中の人はあんなに萌え顔だったのに数年でここまで劣化してしまうのかと驚いていたけど別人だということが分かった。失礼しました。
しかしこれ、大画面で見たかったなあ。